循環器内科で扱う主な疾患
高血圧
高血圧とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態です。日本では約4300万人いると推定されておりますが、その中で適切に血圧がコントロールされているのは約1200万人と3割に満たない程度です。それと近い1400万人は自分が高血圧であることを知らない、気づかないとされています。
なぜか?血圧が高くても痛くも痒くも無いからです。
高血圧は脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、心臓病(冠動脈疾患、心肥大、心不全など)、腎臓病(腎硬化症など)および大血管疾患の重大な原因疾患です。これら重大な疾患を回避するために高血圧の治療、血圧コントロールは非常に重要です。
2019年の高血圧治療ガイドラインによりますと、
「120/80mmHg以上のすべての人が治療対象」とされておりかなり厳しい水準と言えます。一方で高血圧は自宅での血圧が135/80mmHg以上とされています。
血圧は家庭でも測定可能で、苦痛を伴いません。一度血圧を測ってみませんか?
きっと疑問や質問が浮かぶと思います。ぜひご相談ください。
高血圧の治療
高血圧の治療は非薬物療法と薬物療法に大別されます。
非薬物療法
減塩を中心とした食事療法、運動療法、アルコール制限、肥満の改善などの生活習慣の是正が主です。患者さんによっては、睡眠時無呼吸症候群に対する持続陽圧呼吸や、二次性高血圧に対する根治術も含まれます。
薬物療法
Ca(カルシウム)拮抗薬、レニンーアンジオテンシン系阻害薬、利尿薬、β遮断薬などで降圧を図ります。病態によりα(アルファ)遮断薬、中枢性交感神経抑制薬なども追加します。
不整脈
心臓は1日に約10万回も拍動しており、時には規則正しくない電気信号により心臓が不規則な動きをしてしまう場合があります。実は不整脈は誰にでも起こっています。従って治療の対象となる不整脈か否かの判断が重要です。不整脈の原因の一つと言われる甲状腺機能のチェックの他、不整脈そのものをとらえる24時間心電図などを施行し、不整脈について総合的に判断していきます。
不整脈が原因で血管内に血の塊(血栓)ができて、それが脳の血管に詰まって脳梗塞を引き起こすことが有ります。また、脈が遅くなりすぎるとめまいや失神の原因となり得ます。ですから、不整脈のタイプをしっかり診断し、適切な治療が必要となります。
一方で、心臓病等に関係無く、加齢や体質的なもの、ストレスや睡眠不足、疲労などによっても不整脈は起こりやすくなります。
動脈硬化
動脈硬化症とは、文字通り「動脈が硬くなる」ことです。
動脈が硬くなると、血管のしなやかさが失われるために血液を送り出すときの血圧上昇につながり、ひいては心臓への負担上昇につながってしまいます。
動脈硬化によって、血管の内側の細胞がストレスを受け、粥腫(じゅくしゅ:コレステロールや脂肪などと、血中にあるマクロファージと言われる物質が沈着したもの)ができ、血管の中が狭くなったり、詰まったり、また粥腫がはがれて血液中を漂い、やがて細い血管を詰まらせたりします。水道管の内側に錆が出来たり、その錆が剥がれたりして漂うようなイメージを思い浮かべてください。
血管が狭くなることで、必要な酸素や栄養が全身に行き渡らず、臓器や組織にストレスを与え臓器障害の引き金にもなってしまいます。
動脈硬化が招く疾患
動脈硬化症が進行すると高血圧を招き、心臓にも大きな負担がかかってくるため、心肥大・心不全などの心疾患につながります。
また血管が狭くなったり詰まったりすることで、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症などを招きます。
血管が破れると、クモ膜下出血などの脳出血を引き起こすこともあります。
このように動脈硬化は、死につながったり、生活機能を著しく低下させたりする恐ろしい病気を呼び寄せてしまいます。
動脈硬化の治療
そんな動脈硬化症の進行を抑えるには、適度な運動、バランスの良い食事、そしてケースによっては薬物療法が必要になります。
動脈硬化症の危険因子の改善、合併症予防のために、脂質異常症、高血圧、閉塞性動脈硬化症などの治療薬を服用することもあります。
脂質異常症(高脂血症)
脂質異常症は、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)が多過ぎる、または少な過ぎる場合に診断される疾患です。
市町村での健診結果でHDL(HDLコレステロール)やLDL(LDL-コレステロール)、TG(中性脂肪)という検査項目を目にしたことが有りませんか?
HDLは善玉コレステロールと呼ばれこの結果が低い(40未満)場合や、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLが高い(140以上)場合、そのほか中性脂肪や総コレステロールが高い場合に治療の対象となります。脂質異常症を放置すると動脈硬化の進行を早めてしまい、やがては心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす原因となります。
脂質異常は、食事や嗜好品、アルコールの摂取過多の他、運動不足などの環境的要因が重なって悪化します。
狭心症
狭心症は、心臓を冠のように覆う冠動脈の血流が不足することによって、心臓の筋肉が酸素不足に陥る疾患です。
主に動脈硬化のために冠動脈の血管が狭くなり、心臓への血液の流れが一時的に滞るために発症します。
狭心症の症状は、動いたり歩いたり階段を上ったりなど体に負担がかかったときに胸の中央部辺りが締めつけられる、あるいは何かを押しつけられているような圧迫感が感じられることです。少し休むと収まってしまうのが特徴です。
一方で冠動脈が狭くないのに胸の圧迫感が出現することも有ります。これは「冠攣縮(かんれんしゅく)」、つまり冠動脈が痙攣したように収縮してしまい、動脈硬化で細くなった時と同様の狭窄が一時的に作り出されて起きる現象です。
狭心症の検査
狭心症の主な検査には、心電図、運動負荷試験(トレッドミル・エルゴメータなど)、RI(ラジオアイソトープ)検査、ホルター心電図、などが有りますが、なんといっても冠動脈造影検査が必要です。これらの病気を疑った場合には検査可能な病院へ速やかに紹介します。
狭心症の治療
冠動脈が狭くなっていた場合、血管の内側にステントと呼ばれる金属を入れて血液の流れを維持することが有ります。
狭心症の治療法についてですが、狭心症の元々の原因は多くの場合、動脈硬化です。
いったん起こった動脈硬化を元通りにすることは、現時点では不可能です。
したがって動脈硬化がそれ以上進まないように努力する、ということが治療の大前提になります。
そのためには高血圧・脂質異常症・糖尿病などを治療し、また禁煙、適正体重の維持、適度な運動などを心がけることによって、危険因子を可能な限り減らすことが重要です。
それらを踏まえた上で、薬物療法をはじめとする治療が行われます。
心筋梗塞
冠動脈が詰まって血流が途絶えると、心臓の筋肉に酸素と栄養が供給されなくなり、やがてその領域の筋肉が死んでしまい(壊死)、心筋梗塞に至ります。
心筋梗塞になると、激しい胸の痛み、重い感じ、呼吸困難、冷汗、嘔吐などの症状が現れます。ただし、高齢者や糖尿病患者では胸痛を自覚しないこともあり、なんとなく元気が無い、吐き気などが主な症状であったりすることから、見落とされるケースも少なくないので、要注意です。
心筋梗塞の検査
心筋梗塞の診断は発症時の症状(持続する胸痛など)、心電図検査、血液検査などで診断されます。心臓超音波検査(エコー)も心臓の運動障害が観察できるため、診断の補助になります。
典型的な心筋梗塞の場合、当院での心電図のみでほぼ診断可能ですし、心筋梗塞に特徴的な検査を合わせて評価することで、ますます精度が上がります。
心筋梗塞の治療
心筋梗塞では、閉塞した冠動脈の血流を早く再開通させることが最も重要です。そのため診断しましたら直ちに、治療可能な病院へ紹介します。
治療では閉塞した冠動脈の血栓を溶かしたり(血栓溶解療法)、詰まった血管を風船で拡張したり(冠動脈形成術)、ステントを留置したり(ステント留置)、血栓を吸引したり(血栓吸引療法)、様々な治療法を受けます。いずれにしても、いかに早く血流を再開通させるかが、その後の経過を左右します。
心不全
心不全とは、心臓の働きが低下し、全身の組織が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態を言います。
心不全の症状は、疲れやすい、だるい、動悸がするの他、むくみ、動いた時の息苦しさなど多岐にわたります。
普段より疲れる、以前より元気に歩ける距離が短くなったなど、「年のせい」と片付けずに、ぜひご相談ください。
心不全の原因
心臓も当然年齢とともに少しずつ衰えていきますが、そこに心臓が耐えられない(全身に十分血液を送り出せなくなる)ほどのストレスがかかると、心不全の症状が顔を出してきます。
心不全の原因としては、狭心症や心筋梗塞、弁膜症などの病気がありますが、だるさや息苦しさが突然襲ってくることも有ります。風邪を契機とした気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症の他、排便時のいきみにも注意するよう伝えています。塩分や水分の摂取過多、過労、狭心症、不整脈なども引き金になります。
心不全の検査
心不全は症状、身体診察と胸部X線撮影、血液検査、心電図、心エコーなどの基本的な検査によって診断されます。原因と重症度を知る上で、心エコーは特に重要な検査です。
心不全の原因を明らかにするには、さらに運動負荷試験、心臓カテーテル検査、冠動脈造影検査などの検査が必要となることもあります。
心不全の治療
入院を必要とするほどの重症から、外来で内服薬の調整で入院を回避することもできます。
「利尿剤」「血管拡張剤」「ベータ遮断薬」などを組み合わせて治療します。
心臓弁膜症
心臓の内部は、左右の心房・心室という4つの部屋に分かれており、それぞれの部屋を分ける扉「弁」と言います。この弁の開きが悪くなったり(狭窄)、閉じが悪くなったり(閉鎖不全)する病気が心臓弁膜症です。現在「動脈硬化」に伴う弁膜症が増加しています。
心臓弁膜症の症状
弁の開きや閉じが悪くなると、次第に心臓に負担がかかるようになり、動悸、息切れ、疲労感、胸痛、呼吸困難などの症状が出てきます。そしてやがて心不全に至ります。弁膜症は心不全の原因になり得ます。
心臓弁膜症の検査
問診や聴診、心エコー検査、胸部X線検査、心電図検査など、数種類の検査を行います。超音波を利用して心臓の形態を画像に映し出す心エコー検査は特に有用です。心臓のサイズ、筋肉の厚さや動き、弁の動きや逆流を観察して診断に役立てます。心臓弁膜症のほか、心不全、心筋梗塞や心臓肥大などの疾患も確認できます。放射線検査ではないので、被爆の心配もありませんし、痛くも有りません。
自覚症状や検査結果などを考え合わせて、治療方針を立てていきます。
心臓弁膜症の治療
弁膜症が引き起こすだるさや息苦しさが軽症のうちは、心臓の負担をなるべく減らしながら、全身に十分に血液を送り出せるように薬物で治療を行います。最終的に弁の構造異常そのものを治すには手術やカテーテル治療が必要となります。手術などの外科的な治療のタイミングを逃さないよう、慎重に経過をみていきます。
大動脈瘤
全身に血液を送っている大動脈は、人間の体の中で最も太い血管です。心臓から頭側に出た後、頭や腕などに血液を送る血管を枝分かれさせながら左の背中側へ大きく反転し、背骨の前面に沿うようにしながら腹部方向へと下っていきます。心臓から肺の終わり(横隔膜)までを胸部大動脈、横隔膜から下の部分を腹部大動脈と言います。
動脈硬化などで血管の壁の一部に弱くなった部分があると、重点的に血圧がかかることにより、だんだんとその部分だけ膨らんでしまい最後には瘤(こぶ)ができてしまいます。この瘤が動脈瘤です。大動脈瘤の発見は簡単ではありません。症状が無いことも多いために、胸部X線などの詳しい検査を行います。
腹部の大動脈瘤は、へそのあたりにぴくぴく動く瘤を触れることにより発見されることも多いですが、腹部の超音波検査が発見に大きく貢献します。
大動脈瘤の症状
胸部大動脈瘤が大きくなると、周囲を圧迫してさまざまな症状を引き起こします。そうなる以前の発見が重要です。
大動脈瘤の治療
大動脈瘤のさらなる拡大を予防するためには、何と言っても血圧のコントロールが重要です。動脈瘤を直接治療する薬はありませんので、瘤が大きくなり45mmを超える程度になった場合には、手術の検討を行います。
手術には、胸にメスを入れる開胸術や腹部にメスを入れる開腹術が有ります。近年では足の付け根からカテーテルという管を入れて、人工血管を大動脈の内側から固定する方法も実用化されています。
閉塞性動脈硬化症
手足(主に足)の動脈が、動脈硬化によって狭窄(血管が狭くなる)や閉塞(血管が詰まる)をきたし、末梢部分に循環障害を起こして、酸素や栄養を十分に送り届けることができなくなった状態が閉塞性動脈硬化症です。
閉塞性動脈硬化症の症状
この病気は、手足の末梢の動脈に生じ徐々に進行していきます。歩くと足、特に膝から下がしびれたりが痛くなったりして休まないと歩けなくなることが最初のサインです。糖尿病や腎臓病を患っている人は特に注意が必要です。
閉塞性動脈硬化症の検査
動脈硬化は全身の動脈に発生するため、全身の動脈硬化を予防する上でも早期の診断が欠かせません。
この病気の検査としては、問診、視診、触診ほか、ABPI(上腕・足関節血圧比)、血管造影などを行います。
また、閉塞性動脈硬化症では、動脈硬化関連の他の疾患を合併していることがありますので、糖尿病や高血圧、高脂血症(脂質異常症)などの検査をすることもあります。
閉塞性動脈硬化症の治療
症状に応じて薬物治療を開始します。血管造影の結果拡げるべき「血管の狭いところ」が確認された場合は、狭心症のようにステントで血管を広げる治療を行います。
治療後も症状を十分に観察する必要があるので、通院を欠かさないようにすることが大切です。